盆栽の飾り方にはいくつかルールが。ベーシックな教科書通りの飾り方から最近の傾向までを学ぶ
盆栽の飾り方にはいくつかルールがあるのを知っていますか?何気なく飾られている盆栽にも意味があったのです。どのように盆栽を飾れば良いのか。飾り方を理解できると盆栽の展示会がとても楽しいイベントになります。ベーシックな教科書通りの飾り方から最近の傾向まで、基本をしっかり学んで行きましょう。
盆栽の飾り方
盆栽は生育し、仕立て、日々手入れすることも大きな楽しみでもありますが、育てた盆栽を飾って、鑑賞するのも最大の楽しみの1つでもあります。
家の中、イベント会場、お店などでも盆栽を飾ってみると、そこにだけ自然の景観ができたような独特の雰囲気が醸し出されます。
大切に育てた盆栽ですので、できるだけ素晴らしく飾りたいものです。完成品としての盆栽はきちんとした飾り方を覚えれば、盆栽と空間の調和が取れ、お互いが引き立ってきます。ただし、ご家庭で飾る場合はある程度自由なスタイルを取れますが、展覧会場、美術館などで飾る場合では勝手が違ってきます。
あまりにも固定されたルールに縛られるのも、煩わしいものですが、飾り方のスタイル、道具、配置の仕方、空間の取り方などを知っておけば、ご自分で自由に飾る際の基礎知識として参考になるはずです。個性と工夫を活かしつつ、美しく飾りましょう。
1つだけぜひ頭の片隅に入れておいて頂きたいのが、何度もお伝えしているかもしれませんが、盆栽は盆の上に、自然の樹、樹をとりまく景観さえをも投影した、自然の縮景であるということです。故に、盆栽の要とも言える根から幹へと続く立ち上がりを活かした飾り方を心がけるようにして下さい。
家庭における盆栽の飾り方
家庭でのお祝い事や、来客の際に盆栽を飾ってみると空間が引き締まり、家の雰囲気が違ってきます。床の間に飾るというのが通念ではありますが、昨今の住環境では床の間がないお宅も多いかと思います。堅苦しく考えずにライフスタイルに合わせて、部屋の中の様々なスペースに盆栽を飾ってみましょう。
盆栽を室内に置ける期間
盆栽は日当たり、風通しのいい屋外で育てる(詳細は盆栽の置き場所ページをご覧下さい)のが基本ですが、立派に育てた盆栽を、やはり室内に飾って鑑賞したくもなるかと思います。
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日当たりや風通しのあまりよくない屋内では、鑑賞期間にも限界、限度があります。春〜夏の間は、温度、湿度共高くなりますので、1〜2日位で外に出すようにして下さい。冷房をしている部屋では、空気が乾燥して盆栽にもダメージが出やすくなりますので、避けましょう。
秋〜早春にかけては3〜5日程度は室内に置いても構いませんが、暖房のきいた室内も傷みやすいので注意して下さい。
盆栽を飾る時期
盆栽を屋内に飾るのは一般的には秋頃から2月、3月の早春頃にかけてが、一番ふさわしいと言えるでしょう。この期間であれば、3日間から5日間は飾っておくことができます。春から夏にかけては、根腐れしたり、葉やけしたりするなど盆栽が傷みやすいので、1、2日間だけ屋内に飾ったら、屋外に出すようにしましょう。
冷房や暖房のある部屋は、温度変化、湿度変化が少ないので避けるようにして下さい。エアコンの風は盆栽にとっては死活問題となりますので、絶対に当たらないようにしてください。乾燥してしまう上に、冷暖房の風が当たると、樹勢が弱まり、生育でいなくなってしまいます。
ここで盆栽を室内に置いた場合の留意点をおさらいしておきましょう
1.短時間でも日光に当てる
生育する上で不可欠なのが日光です。短時間でもよいので、屋外に出して、太陽光を当てるようにしましょう。特に午前中に日光を浴びるというのが樹にとって大事です。室内でもできれば日光の当たりやすい場所に置いておくようにしましょう。
2.新鮮な空気に触れさせる
風通しの悪い場所では、根腐れや枝枯れ、病気などになる恐れがあります。室内では空気がこもりやすいので、度々空気の入れ替えをするようにしましょう。空気の流れのいい場所に置くようにし、風通しを考えて、鉢の周囲にはものを置かないようにもして下さい。
3.夜露に当てるようにする
水やりとは別で夜露に当たることは、植物の生育に不可欠なものです。実が発達したり、樹が生長したりする上で夜露は大事です。なるべくなら夜、屋外に出し夜露に当てますが、住環境で難しい場合や、屋外に出し忘れたという場合は葉水をするようにします。
4.水やりを工夫する
盆栽は表土が乾いてきたら鉢底から水が抜ける位、たっぷりと水やりをするのが基本ですが、室内ですと困難な場合もありますので、水やりの前後だけ屋外に置く、受け皿を使うなら水抜きするなどして工夫して下さい。
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5.肥料を工夫する
室内に飾る盆栽は、割合に鉢が小さいものが多いので、鉢が小さいと、それに比例し、鉢土も少なく、栄養分を蓄積しておく力も少なくなります。定期的に肥料を与える必要はありますが、夏と冬は生育が止まるので控え、春と秋に十分与えるようにして下さい。
室内に飾る際の樹種別の注意点
松柏類
新芽の伸びる時期は避け、10月頃〜翌年3月頃までが最も適した時期です。1日程度であれば、春〜夏でも風通しのよい部屋であれば飾ってもいいでしょう。秋には古い葉を取り除いてから飾るようにします。
雑木類
もみじのような芽出しの美しいもみじは春に飾っても鑑賞するのもいいかと思われますが、1、2日に留めましょう。紅葉が美しいものは秋に、冬に葉が落ちた後、枝ぶりや幹を鑑賞する「寒樹」と言われるケヤキやソロなどは冬にもいいかと思います。
花物類
開花時期に合わせるのが飾るのに最もふさわしいですが、室内で飾っておくのは2,3日程度が適当でしょう。
実物類
秋、実が充実した時期に飾ります。カイドウやカリンのように、花が盛りの時期に飾られる機会の多い、実物盆栽もありますが、花どきに屋内に置いておくと、結実しなくなることもありますので、注意が必要です。
屋内での飾り方
盆栽が一般家庭にまで広く普及したのが、明治時代以降のことですが、歴史を遡れば、『春日権現記』に出てくる藤原俊成の邸宅の中で「盆栽」らしきものが庭作のすのこに置かれているという記述もあり、すでにその姿が見られます(詳細については盆栽の起源歴史についてのページを御覧ください)。
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和室に盆栽を飾る場合は、そういった長い歴史と伝統の中から生まれた、しつらえの知恵に学ぶ点というのは大いにあるものです。時にはそういったしつらえの知恵を活かしつつ、現代のライフスタイルに合った飾り方をご自分で見つけてみて下さい。
和室
日本の伝統的な和風家屋での盆栽を飾る場所といえば、床の間や玄関となるでしょう。やはり、お客様を迎えるに当たり、最も目に付きやすい場所だからです。
その他、和室のふすまや壁を背に、卓(しょく)や花台などに飾る場合もあります。箪笥や棚などの上にさりげなく香炉といっしょに置いたりもします。
和室において盆栽を引き立たせるポイントは、以下の3点となります。
季節感を合わせる
清潔感があること
空間を広くとること
もう1点気をつけて頂きたいのが、部屋の清掃、整理です。乱雑な中、盆栽を飾っても台無しになってしまいます。
伝統的な和室の風情には、自然との一体感が不可欠です。盆栽は四季を通していろいろなものがあります。春は芽出しの美しいモミジや、サクラやフジなどの花物類、夏は緑が活き活きとした松柏類、秋は高揚する樹や実物類、冬は雑木類の落葉した姿を愛でる寒樹など、四季の移ろいを見事に演出します。
盆栽の飾り方で、春の華やぎ、夏の涼感、秋の豊穣、冬の侘び寂びなどが一層趣深く感じることもあるでしょう。
伝統的な飾り方
床飾り
床の間に飾ることを「床飾り」といいます。「床飾り」の基本は、主役となる盆栽=「主木」、「添え」、「掛け軸」の3点での構成となります。主木が松柏類の場合、「添え」には花物類や草物類を「添え」にし、季節感を表します。
主木 飾る上で中心となる樹。端正で力強い樹形のものを選びます。五葉松、黒松、真柏などの松柏類が格式高いものとしてよく使われます。もちろん、他の樹種も樹形によっては主木になり得ます。
添え 主木の樹の流れを受けて、引き立てる役割をしています。大きすぎたり小さすぎたりしないようにします、花ものや草ものを使うのが一般的ですが、水石や添配(※盆栽を飾る時に使う小さな置物。木製や金属製、陶製など素材は様々)で代用することもできます。
掛け軸 主木が引き立つようなものを選びます。例えば、春は梅、サクラ、桃の花など、夏は海、流水、川蝉などといった夏の風物詩、秋は紅葉、すすきなど、冬は雪を戴く富士山、山里の冬景色など季節感のあるものを選びます。
主木は掛け軸に向かって流れのあるように置き、盆栽の下には地板や卓などを敷くようにします。主木の立ち上がりのことを「勝手」と言い、右に立ち上がれば右勝手、左に立ち上がれば左勝手と呼びます。
枝の造作のことを流れと呼び、添えは流れを受け止める役割をするので、右流れであれば右側に添えを置き、左流れであれば左側に添えを置いて流れを受け止めるようします。
あくまでも、左右や後ろに添えるものは主木を引き立てるための飾りで、掛け軸や添えなどは、それら自体が主張し過ぎではならず、主木が映し出す自然の景観や季節感を表すためのものです。人物画などを避け、あっさりしたものにしましょう。香炉を置いてもよいでしょう。
これらの決まりごとの背景には、古から培われてきた調和美を尊ぶ概念があります。「主木」、「添え」、「掛け軸」の3点構成という伝統的な飾り方の法則を念頭に置きつつ、ご自分の生活様式に合った飾り方を見つけてみましょう。
床の間に置く場合、卓は床の間での間口の3分の1位の大きさにして、盆栽も卓にふさわしい大きさにします。
次に盆栽の枝や幹の流れている具合を見て、向かって右か左かのどちらかに飾るかを決定します。盆栽が全体的に右に傾いているのであれば、卓を左側に寄せて、右の空間を空けるようにして下さい。反対に左に傾いているのであれば、卓を右に寄せて左側の空間を空けるようにします。
盆栽の流れを前提に記述しましたが、直幹の場合は差し枝(1番下の長い枝)の向きにより飾り方を考えます。差し枝が右に出ているのであればやや右寄りに、左に出ているのであれば、左寄りに盆栽を置くようにしましょう。
バランスの問題ですが、大小、高低に変化をつけて組み合わせると、抑揚が付いて、演出効果も高まります。床の間を額縁と見立てて、絵を描くつもりで、盆栽、掛け軸、添え物などを配置するのが美しく見せるポイントです。
床の間がないという場合の飾り方
床の上に、毛氈やゴザなどを敷いて、主木と添えものの2点でしつらえます。白や金などの屏風2曲のものをバックに飾るのもいいかもしれません。どちらかが主木かわからないような立派な盆栽を2点同じ席に飾るというようなことはありえません。
棚飾り
黒檀、紫檀、花梨などで作られた盆栽専用の飾り棚などに複数の小品盆栽を飾ることです。棚を額のように捉えて、季節ごとの美しい盆栽を、棚とのバランスを見ながら飾ります。
寄せ植えと同じく、三、五、七などの奇数にします。棚に盆栽を置くときは、直接置かず必ず卓の上に置きます。
飾り棚を使う場合、最も高い部分は天場と呼ばれ、樹格の高い松柏類が飾られることが多く、順に下段へと飾り付けていきます。中段・下段には雑木類、花物類、実物類を置くという構成が定石となっています。懸崖、半懸崖、大懸崖などの盆栽は、下垂している樹形となりますので、少し高めの段に飾ることで調和が取りやすいでしょう。
全体的に見たときのバランスが重要なので、各盆栽の樹の高さや幅、流れ、鉢の色などにも気を配らなければなりません。三点、五点、七点飾りを比べてみると、同じ盆栽を使っても飾り方によってイメージが大きく違ってくるのがわかります。
三点飾り
「主木」「受け」「添え」で構成される飾りです。鉢数が少ないと、飾るのも簡単に思われるかもしれませんが、却って難しい場合もあります。鉢数が少ない分だけ、余白の美を活かすようにするのがポイントです。
「主木」を松柏類にした場合、「受け」は、株立ちや寄植えなどの多幹の盆栽が合い、「主木」の方向に向かう物にするのがいいでしょう。「主木」が多幹の場合は反対にして下さい。「主木」と「受け」がお互いの流れを受け止める方が、安定感があります。また、飾る時期にふさわしい季節感を伴った樹種であることが望ましいです。
「下草」は、バランスを取り、飾りに個性、面白みなどアクセントを加えるという意味で大切です。
五点飾り
「主木」「受けの盆栽」「添え」で構成される飾りです。
に使用する盆栽は、斜幹か半懸崖等がよく合います。「受けの盆栽」は「主木」の樹の流れを受けて引き立てる役割をしていますので、「主木」が右に流れているのであれば、「受けの盆栽」は「主木」の方向に向かうような樹形が望ましいです。
に力強い印象の松柏類を置くとしたら、「受けの盆栽」の1つは、山野草などでは弱
い感じもしますので、軽妙な印象の、半懸崖、吹き流し・斜幹などの雑木類がいいでしょう。また、対峙するは、との流れ、呼応させるような流れ、樹形のものにしましょう。
3点の盆栽を配置した方と逆の位置には、主木や他の受けの盆栽に呼応するような、斜幹や株立ちなど弱すぎない印象のものが好ましいです。呼応する盆栽の間に置くは、他の物との調和を取るため、石・草・添配などがいいでしょう。
七点飾り
盆栽の点数が多い場合、全体の統一を重んじるあまり、単調になってしまう恐れもあります。高低のメリハリをつけるため、飾り棚の中央に違い棚があるものを使用すると、変化がでます。
は樹高が低い松柏類で模様木が天場に配置されることが多いです。力強く丹精な樹形であれば雑木類でもいいでしょう。
中段には少し軽めの、軽妙な動きのあるもの、雑木類、花物類、実物類など、場合によっては松柏類でもかまいません。
中段内側にはに対して受けになる樹高の低い盆栽がいいでしょう。が単幹であれば双幹以上のものは好ましいです。
は直幹や立ち模様などにするとバランスがいいです。
にはから、を受けて、安定感のある樹形のものが適しています。
はからの棚全体を受けるので、大きめの存在感のあるものにし、棚に向かう流れのものにします。
は、全体的なバランスを取る意味で、草・石・添配などをよく考えて置くようにしましょう。
直幹や模様木などの樹形の盆栽がよく、杉・ヒノキ・杜松・ケヤキ・カエデなどの松柏類・雑木類など小さい芽の樹が好ましいです。草物類、石などでもいいでしょう。
丸卓の飾り方
丸卓は四角形の箱卓よりも軽快な感じがするので、動きのある樹形の方が適しています。すべての棚に盆栽を置くとしつこくなってしまいますので、バランスを考えて何も置かない場所を作ったりします。
曲線が遊び心を演出してくれますので、花物類、実物類だけで飾ったり、石・添配などに工夫したり自由な発想でも楽しめます。
の盆栽は、斜幹や半懸崖などの動きのある樹形がよく合います。
はの受けになりますので、樹高の低い盆栽、滝石・遠山石・溜まり石などがよく合うでしょう。
にはスペースが狭いので、小さな山野草、石・添配などを置くといいでしょう。
の盆栽は、丸卓を受ける流れのもので、存在感のある斜幹や半懸崖などの樹形のものが適しています。場合によっては株立でも調和が取れます。
には、空間的調和と取るために、小さな山野草、石・添配などが好ましいです。
はしつこくならないよう何も置かなくてもいいでしょう。
洋間での飾り方
昨今では、和室を持たない家、マンションでフローリングのみというお家もあります。洋間では、正座して床に座るというよりも、ダイニングチェア、ソファなどに座ることが多いので、盆栽自体も和室よりも高めの位置に飾ります。ものが多い場所、壁面に何か飾ってある場所よりも、無地の壁で落ち着いた場所に飾ると、盆栽がより引き立つでしょう。
ダイニングテーブル、コーヒーテーブルなどにさりげなく飾っても洋室の雰囲気が締まります。どちらかというと空間自体が広い方が、鑑賞するのにいいでしょう。
玄関での飾り方
玄関の入り口の靴棚や、収納棚の上に平卓で飾るか、上り口などに棚を置いて、小物盆栽や中物盆栽を飾るようにします。ここでも、なるべく、盆栽の周囲にあまり物を置かない方が盆栽が引き立つでしょう。
飾る場合の注意点
1.汚れを落とす
せっかく室内に飾って鑑賞するのですから、枝葉が枯れていたり、幹に汚れがついていた
りすると、台無しです。
普段からきれいな状態にしておくというのがベストではありますが、室内鑑賞する前にチェックして、枯れた枝葉、汚れを落とし、鉢内のゴミも掃除しておきましょう。
2.剪定する
こんでいる枝も剪定し、根元付近に生えているひこばえもわずらわしいので切り除いておきましょう。
3.鉢内をきれいにする
盆栽そのものを鑑賞するために、鉢内の固形肥料、肥料カスや雑草などをピンセットで取り除いておきます。
4.鉢の周囲の汚れを取る
鉢のまわりの汚れを取るため、ふいておきましょう。固く絞った濡れタオルでふくといいでしょう。
5.表土や苔をならす
表土や苔を、こてできれいにならしておきます。
6.展示道具をきれいにする
盆栽がきれいになったら、飾るための道具をきれいにしておきましょう。
7.正面を見極める
盆栽の正面をよく見極めてから飾るようにしましょう(※詳細は盆栽の鑑賞の仕方を御覧下さい)。盆栽が一番美しく見える向きを考えてみて下さい。
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ここまできたら……
卓や地板の上に盆栽をのせて飾りましょう。卓や地板にこだわらず、ご自分のライフスタイルに合った自由な発想で飾って頂いても、興が増すかもしれません。
飾るための道具
盆栽を飾って楽しむための道具として、卓、地板や飾り棚などがあります。盆栽とそれらの道具が調和していれば、盆栽も引き立ちますが、合っていなければせっかくの盆栽のよさが半減してしまいます。
道具を見極めて盆栽を飾る楽しさを究めましょう。
自宅で気軽に盆栽を鑑賞したいという場合は、卓や飾り棚などはかならずしも必要ではないですが、正式な飾り方をする場合は、盆栽の品格を損なわないように、相応の道具を使って盆栽を陳列することが慣習となっています。
卓
盆栽の卓は、ただ盆栽を載せるだけの道具ではなく、縮景の一部を担う重要なものです。そのため、樹形に応じて卓を使い分けることが極めて大事になってきます。
盆栽には高卓、中卓、平卓などがよく使われており、飾りが控えめのシンプルなものから、全面や鰭部分に飾りが付いたものまで様々なものが使われています。
地形と樹形の関係
樹形に応じて、卓を使い分けるために、地形と樹形の関係について知っておきましょう。
・平地の樹形 模様木・直幹・斜幹・文人・寄せ植え
・山岳地・山地の樹形 半懸崖・播幹・根上がり・石付き・吹き流し・直幹・斜幹
・高山・岩場等の樹形 懸崖・半懸崖・播幹・石付き
上記から、樹形に応じて卓を使い分ける基準のようなものが導き出されるかと思いますので、卓について説明すると共に、適した樹形をまとめておきます。
1.平卓 高さ10〜20cm程度野平たい机状の卓。天板の形は、釣法右傾、楕円形、正方形などがあります。
適した樹形 斜幹・直幹・根上がり・吹き流し・模様木・寄植え
2.中卓 高さ30〜40cm程度の卓。平卓よりやや脚の高い卓のこと。
適した樹形 模様木・直幹・斜幹・寄せ植え・吹き流し・根上がり
3.高卓 高さ50cm以上の卓。中卓よりも脚の高い卓。
適した樹形 懸崖・半懸崖
4.小品卓 小品盆栽に使用する小さな台。
5.地板 脚のない薄い板状の敷板。
適した樹形 文人・寄せ植え・吹き流し
→盆栽妙で保持している画像があれば順次使用
根上がりや吹き流しについては、盆栽のもつ雰囲気やバランスなどによって、様々な種類の卓を使ってもいいかと思いますが、だいたい上記のものが目安となります。平地にある樹形を想像してみて下さい。どっしりと構えた感じを出すには平卓の方が重量的に調和が取れるかと思います。
景色を想像して、卓を選定すれば自ずとぴったり合ったものが見つかるのではないでしょうか。
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卓の材質
硬質で光沢のあるものが重宝されます。やはり材質がよければ傷がつきにくく、年月を重ねるごとに味もでてきます。高価なものは紫壇、黒壇、鉄刀木(たがやさん)などが使用されています。ケヤキ、モミジ、タケ、キリなどでも作られています。
材質が良いものは、総じて高価なものが多く、高級であればいいのかというとそうでもなく、盆栽の魅力をより引き立ててくれる卓を選ぶことが一番大切です。」
卓や地板は市販されていますが、手作りのものでも十分代用できます。ホームセンターに行けば、様々な材質の木材が揃っています。
簡単な地板の作り方
ホームセンターで杉の端材を20cmくらいに切ってもらう、もしくは自分で切る
杉の表と裏、側面をバーナー、トーチランプなどで焼く。
焼いた部分のすすが手に着かなくなるまでブラシで落としたら、粉を十分に拭き取って下さい。
盆栽を飾ってみると……
自作の地板に飾ると、より盆栽が身近に楽しく感じられるのではないでしょうか。卓や地板ばかりでなく、棚も併せて自作すると一層飾る楽しみが増すかもしれません。
飾り棚
小さな盆栽、小品盆栽を幾つかまとめて飾るのに使われる棚。代表的なものには、四角い箱型で2段以上の違い棚のある箱卓、と半円形で違い棚のある丸卓があります。
添配
盆栽を飾るときに盆栽に添えて飾る小さな置物。カエル、スズメ、シカ、カメ、カタツムリなどの動物、昆虫や藁葺き屋根の小さな家、や渡し船、帆掛け船などの小さな船、お地蔵様や仏様など、釣り人、人形などバリエーションは様々です。
素材は銅製、鉄製などの金属製のもの、陶製、磁器製、木製などがあります。
季節感を出しながら、主木を引き立たせ、妙を添える役割があります。
水石
他にも添配として水石を使います。
水石(すいせき)とは、山水景が感じられる石として重用された「山水石」または「山水景石」が省略されたものであるという説があります。水盤に石を飾った作品を見かけることがあります。盆栽を飾る際に、水石は盆栽の「添え物」として使われたり、受けの盆栽として代用したりされます。
また、水石自体を楽しみ、硬質の紫壇・黒壇、花梨などの台座を作って鑑賞する場合と、水盤に砂を敷いて、水石を置き、時折水を注いで鑑賞する場合の2通りの方法があります。
水石と植物を組み合わせて盆栽と一緒に飾ると、そこに自然の景観の一部が表れたようになり、盆栽が一層引き立ちます。盆栽の添え物として使われる水石は大きく分けて9種類に分類することができます。
岩潟(いわがた):波に削られた荒磯や岸壁の形状を表す
芽舎石(くずやいし):茅葺の農家などひなびた風情を持つ家の形を表す
島形:荒波が孤島の海岸の岩場を通り抜けていくさまを表す
滝石:滝が流れているような姿を表す
段石:河川や地形などに長い年月で自然の変動が感じられる形
遠山石:遠くにそびえる山の姿が思い浮かぶような形
たまり石:自然のくぼみがあって水を入れると水が溜まる形
土波石(どはいし):全体的に平坦で、一部に山を思わせる隆起を持つ石
文様石:石の表面に、花・鳥・蝶・雲・月など模様が表れている水石
水石の歴史
日本には、飛鳥時代(538年-710年)に中国より伝わり、鎌倉時代〜南北朝時代頃よりと言われています。当初は中国から伝わった文化のひとつでしたが、盆栽と同じく、日本独特の解釈を経て、盆栽の流行と共に水石も日本独自の文化としての定着していきました。
当初は権力者層、知識層により、侘び寂びの境地を楽しむことが中心でしたが、江戸時代以降になると、庶民の間にも広まっていきました。明治時代の中頃からは、盆栽家や文化人の間の趣味として発展し、現代ではその伝統を守りつつ、楽しみ愛でられています。
水石の鑑賞ポイント
水石を見る際には、「色」、「形」、「質」の三要素を抑えて鑑賞すると、水石の美しさについ
て理解しやすくなります。
色
特に適しているのは、水石の中でも色に深みがあり、落ち着きのある色が好まれます。白っぽいものより断然黒っぽいもの、真っ黒、青黒、灰黒などが尊ばれます。
形
どこか自然の景観を連想させる部分を備えていなければなりません。その形そのものが自然の景観を彷彿とさせる石がふさわしいです。
ソ
硬くて緻密で、簡単に欠けたり、変質したりしないというのが第一条件です。ただ硬ければいいというものではなく、どこかにやわらかな風情も求められます。
他にも「肌合い」、「時代」の2つの要素を加えて、名石の五大要素といいます。
肌合い
穴や凹凸、ひだ、すじなどが刻まれていて、深い味わいのあるもの。自然にできるもの、水石として養石させ、風化によって生じ、古さを感じさせるものとがあります。
時代
「色」、「形」、「質」、「肌合い」などがよく備わった上で、その佇まいに風情を備え、古びた趣をもつもの、また、長い年月養石し、丹精されたもの。
展示会、展覧会場での飾り方
盆栽好きが集まって、同好会、愛好会などで、展示会を行う場合は、家庭で飾る方法とさほどは変わらず、流儀、仕きたりなどはさほど木にする必要はないかもしれませんが、配置、飾り方などにやはり工夫があると、展示会の意義深いものになるに違いありません。
一席飾り
卓に載せた樹と添えの下草、水石などを一組=一席として飾り、この席を会場に陳列していくやり方です。
卓を載せる台の高さは、70cm〜80cm程度が適当であり、盆栽を卓にのせた高さより60cm程度の高さ、横幅は160cm〜180cm、奥行きは90cm〜120cmが必要です。
バックには、白やクリーム色などのあくまで盆栽を引き立て色合いが主流ですが、金や銀などにすると一層見栄えがするでしょう。限定された空間の中で、隅々まで意識して飾ることが求められます。
一品飾り
盆栽の出品点数が特に多い場合、卓がない場合などのやや略式の飾り方で、合席飾りとも言われます。連続した棚の上にずらりと並べるやり方が一般的ですが、一段で飾ったり二段で飾ったりすることもあり、一品ずつ卓に載せることもあります。下草は所々に配置することもあります。
二段に載せる場合は、一段目と二段目の盆栽が重ならないように注意しなければなりません。
陳列に際して
一列の飾りを調和がとれるように飾ります。中央には一番立派な盆栽を飾り、次に見事な盆栽を、両端に置くと引き立つでしょう。
小品盆栽は大品盆栽と一緒に飾ると存在感が薄れますので、小品は小品だけまとめて陳列する場所を設けるようにしましょう。
樹種については、例えば松柏類のそばには葉物類や花物類などを並べるようにし、同じ樹種が続くというようなことを置かない方が展示に動きが生まれます。樹高や樹形の場合も同じで、高さに変化をつけたり、様々な樹形を展示したりすると変化が出ます。
特に展覧会場では、全体の調和がとれるよう、出品者独自に飾るというのではなく、展覧会のスタッフや、陳列委員などにより陳列するようにします。
展示会、展覧会中も、十分に盆栽のケアをし、水切れをしないように注意し、乾燥しない葉水をするようにしましょう。
屋外での陳列
先端に板の付いた棒杭に盆栽を載せて陳列する方法と、棚に並べて陳列する方法、地板や鉢が載るような岩、を利用して陳列する方法などがあります。
盆栽は基本的には屋外管理するものなので、屋外での陳列では、日光や風に当たり、水やりもしやすいというメリットがあります。
ただ、自然環境に左右されたり、盗難に遭ったりという恐れがありますので、そういった点での管理面での注意が必要となります。