ビギナーが盆栽を枯らした原因の95%が水やりによるものだった!必ず習得したい盆栽の水やり方法。
盆栽が敷居の高い趣味と言われるのはその管理の難しさにあります。管理を難しくしているのは間違いなく水やりです。多くの人が間違った水やりで盆栽を枯らせてしまい自分には向いていないと辞めてしまいます。水やりはけっして難しいものではありません。やり方を知っていれば誰でもできます。水やりをマスターしたらビギナー卒業ともいえる基本の管理をしっかりと学びましょう。
水やり(灌水)について
山野に自生している植物、庭木などは水を求めて根を土中に張り巡らせます。鉢の中で成育する植物は、水を補給してあげなければなりません。
盆栽の鉢は、園芸の草花、野菜、観葉植物などの鉢、コンテナなどと比べても大変小さく、ごく少量の土しか入っていません。鉢中の土は乾きやすく、こまめな水やりが必要となってきます。乾いても枯れますし、水をやりすぎると枯れてしまいます。
盆栽の生死に関わる作業なのです。現に、盆栽を枯らす原因のほとんどは、水やりがうまくいかなかったと言われるように、毎日の水やりを抜きにして、盆栽管理について語ることはできません。まずは、盆栽を育てる上で一番肝心な作業は水やりであると肝に命じて下さい。
盆栽を枯らす主な要因
1.水切れによる場合
2.水のやりすぎによる場合
水やりの意味
樹にとって水は生命の源、植物の体中、例えば高等植物(※根・茎・葉の三器官に文化している植物のこと:種子植物、シダ植物など⇔下等植物:構造が簡単で器官の分化があまり発達していない植物:菌類、藻類など)の水分量は約80~90%と言われて、中には40%程度のものがありますが、ほとんどが水でできています。
一般的に分かりやすいのは、生食用の果実で、水分含量が高い傾向があります。ミカン、モモ、リンゴ、バナナなどを比べてみると、水分量が違うな、と感じるかと思います。水が少しでも減ってしまえば、生命活動を維持することが困難になり、乾いて萎びたり、枯れたりしてしまいます。
植物の葉、茎、花などを上半身とするならば、根は下半身であり、根の役目は上半身を倒れないように、しっかり支えることですが、さらに大切な役目があります。植物の体中の水分は根から吸い上げた水が元になっています。
植物は地中の水分を根から吸い上げ、水は植物の体を潤しながら、幹や茎の中の管を通って、上へ上へと登っていきます。葉に届いた水は葉脈を通して葉を潤し、蒸散(※葉で蒸発)します。
また、水は植物に欠かすことのできない、葉の光合成にも使われます。太陽の光をエネルギーにし、根から吸い上げた水と二酸化炭素で、炭水化物(糖やでんぷん)と酸素などの栄養分を作っています。ここで作られた栄養分は、茎の中の管(師管)を通って、上から下へと根の方へ下っていきます。このように栄養分が植物の体に行き渡り、最後は根まで届くのです。
水は植物の体をめぐり、栄養を与えながら、循環しているのです。日照量の多い日ほど光合成量が増加しますので、新陳代謝も活発になります。気温が高い日に多くの水分を必要とするのは、乾燥しているというだけでなく、新陳代謝によって水分の蒸散量が多くなるからです。
植物の体はほとんどが水
水がないと生きていけない
因みに光合成にとっては水と光が重要ですが、もう1つ重要なのは風です。二酸化炭素は大気中に0.03~0.04%しかありません。水500ml入のペットボトルのうち、0.2ml程度=水1滴分しかないのです。
この僅かな二酸化炭素を葉に供給するためには、適度な風が不可欠なのです。根から葉へと水を運ぶための蒸散においても、風がないと葉の周辺に水蒸気が留まってしまい、蒸散が進まず、最近やカビの繁殖につながり、病気の原因にもなってしまいます。
※詳細は盆栽の置き場所について、を御覧下さい。
理科の授業のようになってしまいましたが、光合成の仕組みを知ることで盆栽を枯らさずに済むかもしれませんので、これから盆栽を育てる方は、頭の片隅にでも留めておいて下さい。
水やりの目的
植物になぜ水が必要かは、おわかり頂いたかと思いますが、盆栽の水やりの最大の目的として、限られた鉢の中でのみ水を補っている盆栽の樹が、水不足にならないようにすることです。
水は植物の中をめぐり、栄養を与えながら循環している故に、水やりは鉢中の土を湿らせるためではなく、要となる根の生育をよくしてあげることです。
根に欠かせない3要素は「空気」「水」「養分」ですが、中でも空気が不足すると、根は酸素欠乏で窒息してしまい、結果的に根腐れを起こしてしまいます。
水やりによって鉢の中に溜まっている古い空気が押し出されて、新しいが空気が水と一緒に鉢の中に入り、根が新しい空気を取り込むことができるという仕組みです。
根が健康であって、はじめて葉、茎、幹などの土上に出ている部分が生き生きし、盆栽の樹の生育がよくなるのです。
水やりのタイミング
1.盆栽水やり前
2.盆栽水やり後
水やりの基本は、土の表面が乾いてきたら鉢底から少し水が流れ出るくらいまで、たっぷりと水を与えることです。この点では普通の鉢植えと変わりがありません。しかし、盆栽は小さく浅い鉢で少量の土しか使っていないため、乾くサイクルが早いというのが普通の鉢植えと大きく違います。
また、ある程度の経験がなければ、土の乾きを判断することが難しいかもしれません。まして、化粧砂が敷かれていると、土の乾き具合が分かりません。
季節、天候によって土の乾き具合は違ってきますので、鉢土を指で触ってみて乾き具合をチェックして水やりをしましょう。毎日触って観察していれば、そのうち触らなくても水やりのタイミングがわかってくるでしょう。
乾いたら水を与える、の定義も個人によって違いますので、一つ間違うと完全に乾いてしまって、枯れてしまうこともありますので注意が必要です。
水やり前と水やり後の土を比べてみれば、土の様子が違ってくると思いますので、前後の違いをよく観察しておくといいでしょう。
写真①盆栽水やり前と②盆栽水やりを比べてみて下さい。
①は土、化粧砂が乾いてさらさらしており、触って表面や土中が湿っていない状態です。この時が水やりのタイミングです。
②は、土や化粧砂の色が濃くなり、表面と土中が指で触ると湿っています。
⇒土や化粧砂、苔なども乾くと白っぽく、色が薄くなり、そのため乾いていると判断できます。表面が乾いていても、土中は湿った状態のこともあるので注意して下さい。
土が乾いてから水やりをする
土中が湿った状態では水やりをしない
水分不足のサイン!!!
土が乾いて白っぽくなる
葉のあるものは葉に生気がなくなってくる
鉢中に生えているコケが色あせて白っぽくなる
鉢中に生えている草がしおれてくる
指で土を押してみたときに弾力がなくなっている
頻繁に水を与えすぎて、常に土中が湿っている状態であれば、根が酸素不足になり、根腐れし、窒息状態になるので葉や根が変色し、株が衰えて、枯れてしまいます。土の表面が乾いてから水やりをするのは、植物の根を健全に生育させるためでもあるのです。但し、土中がからからになってしまうまでではありませんので、程度を見極めましょう。
また、②の水やり後を見ていただくと、鉢から水が滲み出て、また鉢を置いた台の上が湿っているのが分かります。盆栽に与えた水が鉢底から流れ出て湿ったものであり、これがたっぷり与えるということとなります。
受け皿などの上であれば、受け皿に水がしみ出してくるまで水やりをし、受け皿にたまった水は捨てるようにして下さい。残しておくと、根腐れの原因となってしまいます。
注意!!
盆栽の鉢の形は、長方形、正方形、丸、楕円、など様々なものがあります。決まった角度や方向だけで水やりをしていると、根元まで水が行き渡らないことがあり、根が乾いた状態のままになってしまうこともあります。水やりをする際は、鉢の形に合わせて土の表面全体に水が行き渡るように心がけて下さい。
季節ごとの水やりの目安
盆栽は、樹種、樹齢、樹の大小、鉢の大小・状態、用土の配合、季節や地域など、気象条件、地形などで違ってきます。同じ樹種の盆栽でも、葉の数、葉の大きさなどで違いますし、同じ樹種の盆栽で同じ地域で生育していても、日光や風の当たり方など、置き場によって違ってきます。そうなると水やりの仕方も変わってきます。
様々な条件によって異なりますが、季節ごとの1日の水やりの回数の目安は、
春(新芽の芽吹き~梅雨入りまで) 1日1回
夏(梅雨明け~最高気温が28度を下回る頃まで) 1日2回
秋(最高気温が27度以下~落葉まで) 1日1回
冬(落葉後の休眠期) 2日に1回
となっていますので参考にして下さい。植物のストレスにならないよう、できれば決まった時間に水やりをするようにしましょう。
まずは上記の回数を基本にして、水やり時に盆栽をよく観察し、個々の盆栽における微妙な差を把握しましょう。観察していけば、徐々にご自身の水やりのベストなタイミングがつかめるはずです。
また、水やり時に観察することで、盆栽の生育状況のチェック、虫が付いていないかどうか、草取り、肥料、針金をはずすタイミングなど、管理面の最適の時期を把握することができます。
水やりの目安を記述しましたが、仕事や諸事情で家での滞留時間が少ない方もいらっしゃるかと思います。水やりを忘れたたり、家を空ける時間が長いからと、一度に大量の水を与えているうちに枯らしてしまったこともあるかもしれません。
そういった方は、上記を目安に、ご自分の生活サイクルで可能な頻度、時間で水やりをするようにして下さい。
季節による水やり
水やりは木の生育を観察する絶好の機会
春
新芽が伸び出す時期です。栄養分と水分を特に必要としますので、乾燥しないように気を配る必要があり、1日1回を目安に水やりをします。
ただし、春の強風の日は乾きやすくなりますので、様子を見て1日2回ほど必要になる日もあります。開花の時期でもありますので、花にかからないよう樹全体に水をかけて下さい。
水を多く与えすぎると、予期せず葉が育ちすぎたり、新芽が伸びすぎたり、水切れに対する抵抗力がなくなるため注意して下さい。
夏
夏は強い日差しと高温のため、葉からの蒸散が激しく、乾燥しがちになります。午前中の水やりだけだと、土がすぐに乾いてしまうことも多いので、鉢内が乾かないよう1日2~3回を目安に、鉢穴から水が滴る位に十分に水を与えて下さい。
夏場の水やりでは、昼間に水やりをすると蒸れたり、すぐ乾いたり、水がお湯となり根を傷めたり、葉についた水がレンズ化して葉焼けを起こしたりしますので、気をつけて下さい。
夕方から夜にかけて水を与えると、鉢内を冷やす効果があります。特に夕方の葉水は、葉の温度を下げ、汚れやほこりを取り除き、葉に生気や美しさを出すだめにも効果的です。
十分に水やりをできない場合は、鉢を西日が避けられる場所に置いて、乾燥による害を防ぎます。
秋
春の次に植物が育ちやすい時期です。ただし、春は次第に暖かくなっていくのに対し、秋は日毎に気温が下がって寒くなっていきます。
秋になると夏に比べ、土の乾きも少なくなり、水分の必要量もぐっと減ります。土が乾いたら水やりをする程度になるので、水やりの頻度も少なくして、1回あたりの水の量を意識してたっぷりあげて下さい。
秋から冬へと植物の生育が緩やかになっていきますから、状態を見ながら水やりして下さい。
冬
この時期はたくさんの植物の生育が遅くなり、根が水を吸う力も弱くなります。冬になると落葉している樹種もあり、萎れた、枯れたなどの現象がすぐ現れにくいので、水やりもつい怠ってしまうことがあります。
この時期に水を切らすと春の芽出しに影響が出てきます。空気も乾燥し、雨も少なく風が強い気候により、早く乾いてしまうことがあるので、十分に気を配って下さい。鉢内が完全に乾ききらない程度に少なめに与えます。冬の水やりは暖かい日の午前中に行い、夜には鉢内の余分な水が抜けているようにします。
気温が下がる時間の水やりは、鉢中が凍る恐れもありますので避けましょう。特に、保護室(ムロ)内などは、表土が湿っているようでも、鉢内が乾いているということも少なくありません。冬の盆栽は“寒より乾に気をつけよ”というように乾燥には要注意です。
梅雨どきの水やり
盆栽の水やりで一番難しい時期は、梅雨時期です。梅雨ですと、空中湿度が高く、過湿が懸念されますが、実際は水切れの方が心配なのです。
梅雨時期は、雨もしとしと降っており、表面の土も濡れているので、水やりはしなくていいのではないかと思いがちです。小雨くらいでは水分の補給量としては不十分で、土中は乾いてしまっていることがあります。
葉がよく茂っていると、雨水が鉢の外に落ちて、根元まで到達しないことがあります。土中の状態を把握して、水を補ってあげるようにしましょう。梅雨時期は、鉢土の乾き具合の判断が難しいものですが、外出時は、突然晴れることもありますので、必ず普段通りの水やりをして下さい。
上記は梅雨どきだけでなく、雨の日の水やりとしても参考にして下さい。一定期間雨が降る場合は、過湿に気を付け、鉢底の一方をかたむけておくと、排水がしやすくなります。
塩害を防ぐために
海沿い、海の近くに住んでいる方は塩風による害の心配が懸念されますので、葉水をたっぷりかけることで塩害を防ぐことができます。また、台風が来た後は海の近くでなくても、海に隣接する地域に住んでいる場合、塩害の恐れもありますので、台風がおさまったら、同じく葉水をたっぷりかけておきましょう。
水やりの仕方
水やりは一度全体にいき渡るように、ジョウロで上からたっぷりと与えます。上からかけるのは、葉水の効果もあり、ダニの防除や葉の汚れも落としてくれるからです(※先程夏の水やりで、葉焼けに注意と記載しましたが、日差しが強い火の葉水には気をつけましょう)。
盆栽のまわりから水を与えると、やりこぼしが少ないです。最初の水やりで、土を湿らせ、鉢内に水が浸透しやすい下地づくりをし、乾かないうちにたっぷり与える、返し水をします。言ってみれば、一度目はコーヒーの蒸らし時間のようなもので、水が浸透しやすくなって、しっかり水分が土に吸収されるようにするためです。
根水もたっぷりあげて、全体にかけたら、もう一度盆栽を見てみる習慣を付けて下さい。もう少し水をやった方がいいと思ったら、追い水“を与えましょう。
すべての盆栽に水やりをした後、特に乾燥する盆栽を対象に、水を補うことを拾い水“といいます。
追い水、返し水、拾い水はいずれも、盆栽の状態をよく観察し、「この樹は水が足りないかも」「土がまだ乾いている部分があるな」「水をやってもすぐ乾燥してしまうな」などと考えて行うもので、植物への思いやりに通じる手法ですので、ぜひ実践してみて下さい。
与えた水は一気に浸透するわけではなく、実際にはかなりの時間をかけ、いき渡っていきます。瞬時に大量の水を与えた後は鉢底から水が出ているのを確認しましょう。鉢皿は、盆栽の置き場所を汚さないようにするためのものなので、水を貯めないように、たまったら捨てるようにしましょう。
水やりの道具
1.ジョウロ
盆栽の水やりに一番いいのは、はす口付きのジョウロです。ジョウロの先端に付いている、水の注ぎ口となるはす口は、穴が細かいものほど水の勢いがやさしくなります。
水が柔らかく当たれば、鉢土の跳ね上げが防げます。穴が小さいと、水垢やごみなどで詰まりやすいのですが、はす口だけ取り外して簡単に洗えるものや、こし網付きのものが市販されています。
ホームセンターや園芸店などで市販されている園芸用のジョウロは、はす口の穴目が粗いので、盆栽用のジョウロを使用するのがおすすめです。
左上から時計まわりに銅製、真鍮製、プラスチック製、ステンレス製など
はす口付きのジョウロの中でも、銅板で作られているものが推奨されます。銅製は殺菌作用(※水を入れっぱなしにしないこと)があり、常に新鮮な水を盆栽に与えることができます。
水に溶け出す銅イオンの効果で、盆栽のコケの生育もよくなるとも言われています。また、銅製のジョウロは、素材特性から、使用するうちに風合いや渋みが出て、その変化を楽しむことができます。
竿の部分が長いので、水圧がコントロールできる上、離れた場所の鉢にもかかりやすいというメリットがあります。
盆栽専用の銅製のジョウロは、長く使えますが高価なものが多いので、一般的には鉄製のもの、トタンやブリキのものが用いられます。
その他、真鍮製、ステンレス製、プラスチック製などがあります。何れにせよ、はす口の穴目が細かいものを選ぶといいでしょう。鉄製のものは、外に放置したりせず、きちんと管理がすれば、6、7年は使用できます。真鍮製のものも光沢が独特の味わいで、使い込むうちに風合いに味が出て変化を経年の変化を楽しめます。
ステンレス製のものは比較的軽く錆びにくく、プラスチック製のものは、低価格で、さびる心配もありませんが、屋外使用で日光や寒さで劣化してしまう傾向があります。
はす口は、平たいもの=直口、斜めのもの=斜口、水の出る穴の数が異なるものなどに変えることで、微調整ができるようになっています。例えば直口のものは水が強めにまっすぐ出ますが、斜口のものは散水する面積が広くなり、柔らかく水が出ます。
ジョウロの大きさは、1リットル前後から9リットルくらいまであり、鉢数や盆栽の大きさ、扱いやすさなどで、大きさを決めますが、管理しやすいのは5~6リットルくらいのものです。
盆栽の数や、大きさ、高さ、樹種、枝葉の付き方、置き場所、使用者の背丈などを考慮し、適したものを選びましょう。
2.ホース
ホースで水やりをする場合は、盆栽の水やりに適しているノズルが、たくさん市販されているので利用してみて下さい。
ノズルも、銅製、真鍮製、ステンレス製、プラスチック製、などがありますが、盆栽用には銅製や真鍮製のものがおすすめです。銅や真鍮のものはやはり高価ですが、はす口の穴目が細かく、水の勢いがやさしいので、盆栽の葉や枝などを傷めずに水やりするのに適しています。
銅製や真鍮製のノズルには、水の勢いがまっすぐな「輪切り型」と、水の勢いが柔らかくて水が散水する「斜め切り型」の2種類があります。
コック付きのものもあり、水の噴出をコックで止めることもできます。ノズルも、機種、鉢の大きさ、気候、盆栽の状態などを見て、その時期の盆栽の状態に1番合ったものを選ぶとなおいいでしょう。
3.噴霧器、霧吹き、ハンドスプレーなど
左上から時計回りに噴霧器、ペットボトルに取り付ける噴霧器、ハンドスプレー、霧吹きなど
噴霧器を使う場合は、消毒用とは別に水やり専用のものを使用して下さい。噴霧器はホームセンターや園芸店で市販されていますが、盆栽専用の噴霧器を使うと、樹にやさしく散水することができます。
噴霧器での水やりは特に、葉水や苔を湿らせるのに適しています。葉水は霧吹きやハンドスプレーでも十分です。
噴霧器、霧吹き、ハンドスプレーなどだけで水やりすると、1鉢ごとに丁寧にしているつもりでも、水の力が弱く根元の芯まで水が届かず、水切れをしてしまい、土中の空気の入れ替えも十分にできなくなってしまいます。
噴霧器を選ぶ際は、盆栽の大きさや、鉢数を考えて選びましょう。
ジョウロ
はす口付きのもの――穴目が細かいほど水の勢いがやさしい
竿の長いものほど水圧が一定に
◎銅製のものがベスト
○鉄製、真鍮製、ステンレス製、プラスチック製など
ノズル付きホース
はす口付きのもの―穴目が細かいほど水の勢いがやさしい
◎銅製や真鍮製
○プラスチック製、ステンレス製
噴霧器
霧吹き(特に葉水に適している)
ハンドスプレー
自動灌水
鉢数が増えた場合や、外出や諸事情により水やりを決まった時間にできない場合は、機械の力を借りた自動灌水という手段があります。
一般家庭でできる自動灌水
盆栽専用というわけではありませんが、家庭用の自動潅水システムがネット通販などで売られています。タイマー設定し、決まった時刻に、必要な時間分だけ、自動で水やりができます。
自動散水タイマーを、水道蛇口につけて、そこから盆栽鉢、盆栽棚にホースを伸ばせば、セットした時間に散水がはじまるものです。本来は、盆栽、土の状態を見ながらの水やりですので、あくまで補助的に使用するのが目的ですが、留守や鉢数が多い場合の水やりに便利です。
※自動潅水については不在時の水やりについて詳しく説明しています。
鉢数が多い、棚場が広い場合の自動潅水
給水パイプにノズルを取り付けて水やりをします。硬質のビニールパイプ、プラスチック製のパイプなどに、適当な感覚でノズルを取り付けて、水源にパイプを導いて、ポンプにタイマーを取り付けて、必要な時間だけ水やりをします。
自動灌水を行う場合は、風の方向や、盆栽の置き方で、灌水ムラができやすいので、水のあたりやすい場所、あたりにくい場所に注意しましょう。水のやり過ぎや、水の不足に気をつけ、やりすぎの場合は盆栽の場所を変えたり、不足しているものには、個別に水やりをしたりするようにしましょう。
不在時の水やりについて
旅行や出張、諸事情などで何日か家を空けないといけない、仕事で日中水をあげることができないという方に、幾つか対処法について紹介しましょう。
置き場所を工夫する
日中に水やりをできない場合は、半日日陰になる場所で管理します。樹は直射日光や西日で乾燥しますので、日のあたる時間を短くすることで乾燥を防ぎます。午前中に光を浴びる環境が最適です。
植物的には1日2時間程度の光があれば生きられます。1週間程度ですと日陰でも大丈夫です。枯らさないためには、気候やご自身のライフスタイルに合わせて置き場所をかえましょう。
水苔で乾燥を防ぐ
太陽を浴びると鉢の中の表土が乾きます。置き場所で日照時間を調整できない場合は表土が直接太陽に当たらないようにします。表土が乾燥しないようにするには、水苔を使用するのがよいです。
水苔は保水性が良く、植物の乾燥防止に使われます。乾燥された状態で園芸店にて販売されているので、使用するときは水に浸して吸水させてから使用します。
自動潅水装置を使用する
周りに盆栽を託せる人がいる場合は別として、自動給水装置を利用するという方法があります。タイマーで設定した時間に水を与えてくれるので安心です。
家庭用ですと5,000円~20,000円で販売されています。設置が多少面倒ですが、説明書を読みながら20分~30分くらいあれば設置できます。
蛇口に直接取り付けるもの、ホースに取り付けるもの、灌水時間の設定、雨を検知して、タイマー予約を自動的にキャンセルするセンサーがついたものなどもありますので、ご自分の生活サイクルに合った、給水装置を見つけてみて下さい。
散水タイプのものは、強風の時など灌水ムラがでることがあるので、鉢に挿して使うタイプのものが確実に水やりできます。チューブの先端を土に挿すと、鉢中に水が広がります。何本も挿すと、より確実です。
簡易的な自動水やり器具を使う
細かいチューブの中の水が自然に吸い上げる力(毛細管現象)を利用した装置です。水に入れた容器に、給水チューブを入れると、チューブが水を吸い上げて、水滴が10~15秒程度に1滴ずつ落ちて、自動給水されるタイプや、同じ原理で、土に埋め込む部分が素焼きやスポンジ状のリボンになっていて、適度に水が浸透していくタイプなどがあります。
機械と違ってタイマーなどはもちろん付いていませんし、給水装置や水を入れた容器によって、給水できる期間が変わってきますので、不在にする期間、頻度などに合わせて利用しましょう。
給水キャップを使用する
ペットボトルに給水キャップを取り付けて、土壌に挿して使うものもあります。調節弁で給水速度が調整できるタイプもあります。
タンク付きの水やり器具利用
中型、大型の鉢であれば、2リットルのタンクが付いた水やり器もあり、最大20日間程に渡って水を供給することが可能です。4色に色分けされた調節弁で、給水量を調整することができるようなものもあります。
排水口をペットボトルやタンクに取り付けて使うものは、水の蒸発を抑えて効率よく給水できるというメリットがあります。
水を吸い上げる鉢
受け皿に水を張っておくと、鉢が水を吸い上げ、植物に適度に水を与えてくれるという鉢もあるようです。
底面給水
◆腰水
ホームセンターで手に入る園芸用トレー、たらい、バケツ、プランターなどを用意します。管理する盆栽がおける大きさの入れ物を探しましょう。
たくさん盆栽がある場合は、入れ物を何個か用意するか、衣装ケースなどで代用して下さい。お手持ちの盆栽が入って、水が張れる容器であれば利用できます。
盆栽の数や大きさに合わせた入れ物に盆栽を置きます。ギュウギュウに置くと盆栽が浮いて、きちんと水に浸からない場合があるので気を付けて下さい。
トレー、たらい、プランター、衣装ケースなどに鉢を並べて鉢の3分の1~4分の1程度の深さまで水を注ぎ、鉢底から水を吸うようにさせます。2~3日の不在であれば、水切れが防げます。この方法を腰水といいます。
〈腰水をした場合の置き場所〉
夏場では、一番気温の高い日中の炎天下にさらすと水が高温になり熱湯になってしまいます。根を痛めるばかりか枯れてしまいかねないので、水やりができずに腰水をした場合は涼しい日陰に置くようにします。まったくの日陰や暗い場所でも大丈夫です。数日程度ならまったく太陽の光がなくても生育には影響しません。
1週間ほど外出する場合は、鉢の半分から3分の2程度の高さに水を張った容器、バケツ、たらいなどに盆栽を入れ、日陰のなるべく涼しい場所に置いておきましょう。水に日が当たって根を傷めたり、風通しがよくないと水が腐って根腐れの原因となったりするので注意しましょう。
緩やかに給水させるなら、水を張ったトレー、たらいなどにブロックを並べて、布を掛けて水を吸わせます。その上に鉢を置いておくと少しずつ吸収していきます。
樹種によって水をほしがるもの、根腐れをおこしやすいものがあるので、ためる水の量を調整して下さい。
底面給水トレーを敷く
植物の育苗の為によく使われる底面給水トレーを利用します。使い方としてはトレー水を張り、水の量を調整し、その上に盆栽を置きます。
トレーの表面には、凹凸があり、鉢の底穴を防ぎません。400円程度から販売されており、大きさもバリエーションがありますので、鉢数に合わせて選ぶことができます。
自宅にあるもので給水
自動給水装置を買う間もなく、急に中長期的に外出しなければならなくなった、外出は稀なのでわざわざ専用の水やり器を購入するのはちょっと、などという方には自宅にあるものでできる給水方法もあります。
ビニール袋を利用する
水をあげられないと、真夏の太陽の下では間違いなく水切れして枯れてしまいます。極力乾燥させないようにしないといけませんので、鉢の上に水苔もしくは、濡らしたティッシュ等を置いて鉢をビニール袋で覆います。
ビニール袋で覆った鉢を日陰(暗くてもOK)の風通しのよい涼しい場所に置きます。これで2~3日は大丈夫です。
鉢全体を濡れタオルや、濡れた新聞紙などで包んでおいても、水分を逃すことなく、一定期間乾きを抑えることができます。特に大きい鉢であれば、大きなタオルを使ってこの方法で対処できます。
長期間不在にするなら、タオルの上からビニール袋で包むとより効果があります。ビニーエルで包んだ場合は、高温の場所に置くと、ビニール内の鉢が蒸れて、樹を傷めることがあるので注意が必要です
外出先から帰ったらたっぷりと水を与えてあげてください。
自作の水やり器
ペットボトル給水タイプの、市販品の水やり器と同じ仕組みのものを自作することもできます。水を吸うことのできる紐や、フェルトを紐や棒状にしたものなどの一方の端を水入りのペットボトルに入れ、一方は鉢に埋め込みます。
ペットボトルと鉢をつなぐものの素材により、給水量が大分違ってきますので、留守にする前に試してみると目安がわかるでしょう。
小鉢、豆鉢の場合
小さな鉢に仕立てたものは、鉢中の土量が少ないので、保水力があまりなく、水切れを起こしやすくなっています。やはり、置き場所に工夫し、直射日光を避け、日陰に置き、葉からの蒸散作用を抑制し、鉢中が乾かないように気をつけましょう。
〈二重鉢〉
小鉢の盆栽は、腰水でも対処できますが、長期に渡って水に浸けますと、鉢が小さく根腐れを起こす場合も稀にありますので、土や富士砂を入れた大きな鉢に十分に水を与えた後、その中に小鉢を入れたり、並べたりしておけば、乾きが緩やかになります。
外出する場合は、砂の中に鉢を埋めて、日陰に置いておけばさらに安心です。豆鉢のものも、小鉢よりさらに乾きやすいので、十分に水をやった土、砂入りの大きな鉢に、鉢ごと埋め込んでしまいましょう。
帰宅後は……
なるべくすぐに水から盆栽を取り出して、たっぷり水を与えて下さい。室内に置いてあるのであれば、屋内でも外の環境に近い場所に置いて、少しずつ外の環境に慣れさせるようにしましょう。
外出が長期に渡る場合は……
盆栽を購入したお店、専門店、信頼の置けるお店などに相談して、盆栽を預かってもらうといいでしょう。お店によっては有料で、預かりをしているところもあるので、購入時や普段から足を運んで聞いておくと、有料無料に関わらず、いざという時心強いのではないでしょうか。
また、友人知人隣人に預けるという場合は、水やりや置き場所について記載したものを耐水性のあるラベルやプレートに書いて、盆栽に挿しておくとわかりやすいでしょう。取りに行く際は、手土産があると、話に花が咲くかもしれません。
鉢が小さく持ち運びができるようなものであれば、かごやプラスチックバッグなどに入れて、外出先に持っていくのもひとつの方法です。
車で外出する場合は、小さいものであれば、車のドリンクホルダーにおさまるものもありますし、大きめのものならトランクに積んでおいて、水やりをすることもできます。車中が高温になることもありますので、盆栽を置きっぱなしにする場合は、窓を少し開けておいて忘れずに換気をして下さい。
水切れをしてしまった場合
水切れした際に一番やってはいけないことは、慌てて大量に、ひっきりなしに水を与えることです。
重症でない限りは、まずは風通しのよい日陰に避難させて適度に水を与えてみて下さい。葉が元のようにぴんと張って回復したようであれば、再び元の場所に戻しましょう。
水切れの感じがややひどい場合は、すでに根がかなり傷んでいると考えられ、水を吸収する力は著しく低下しています。根で水を吸収しないので、表土も乾きにくくなっているはずです。この状態で水を大量に与えると、根腐れの原因となり、枯死してしまう可能性もあります。
こういうときこそ、慎重な水やりを心がけて下さい。土の状態をよく見て、乾き具合によって1回の水やりの量を調整して下さい。できるだけ早く乾くように、最初は水の量を少なめにしてあげるといいでしょう。その際水はけがよくなるよう鉢に何かをかまして傾けるようにしましょう。
重症な場合は、前出の底面給水“のところで説明した、腰水をし、大きめの容器に鉢を入れ、水を鉢の3分の1程度まで張って10分ほど付けてから、2~3日間日陰に置きます。
下記で紹介するドブ漬けも水切れした場合の対策として効果的です。
水切れしたら
慌てて大量に水をあげる
○風通しのよい日陰に避難させ、適度に水を与える
○腰水をする
○ドブ漬けをする
ドブ漬け
根が育ち、鉢の中の土が固くなってきたら、鉢ごと水に漬けます。鉢より大きな容器いっぱいに水を張って、この中に鉢ごと入れて、土の中全体に水を行き渡らせます。できれば樹の頭まで水に沈めたほうがいいのですが、少なくとも鉢は完全に水に浸かるようにしましょう。
水切れの予防法として、7月上旬~8月下旬にかけてこのドブ漬けを行うことをおすすめします。たらいやバケツなどに水を入れて、盆栽をつけこむだけで、ブクブクと鉢から空気の泡が出てきます。そのまま1時間程度漬け込むとしっかりと水が土や根に浸透します。
水やりに使う水
水やりの水は、できるだけ清潔な、中性に近い軟水が適しています。ここで水の中性と軟水について説明しておきましょう。
中性とは……
飲料水を分類する基準の1つにpH(power of hydrogen)がありますが、これは水の中に水素イオンがどの程度含まれているかを示す数字です。pHは0~14までの数値で表され、数字が上がるにつれて酸性度が低くなります。pH1は強い酸性で、pH14が強いアルカリ性、中間のpH7が中性になります。一般的には酸性は酸っぱいもの、アルカリ性は苦いものが多いです。
軟水とは……
水は硬度によって区別され、軟水と硬水があります。硬度とは、お水1リットルあたりのカルシウムやマグネシウムの含有量で、WHO(世界保険機関)が定める基準では硬度120m未満が軟水、120mg以上が硬水とされています。
日本の水道水は一般的に軟水であると言われていますが、硬度は地域によって異なり、東京、千葉、埼玉、沖縄などは比較的硬水が多いと言われています。日本での一般的な分類は下記の表のようになります。
区分硬度
軟水100mg/L未満
硬水100mg/L以上
一般的に水道水は中性で軟水なので、盆栽の水やりに適しているのではないかと思えますが、水道水を使用する場合も注意点があります。
水道から出したばかりの冷たい水を、盆栽に与えると、樹に負担がかかってしまいます。水の温度は、気温と同程度のものにして下さい。
また、水道水には、殺菌作用のある石灰の一種で次亜塩素酸カルシウム=カルキやミネラル成分が含まれており、盆栽や鉢にカルキやミネラルが白くなってこびり付いてしまうことがあります。苔が変色してしまったということもあるようです。
カルキ入の水を植物に与えると枯れてしまうのではないかと思われる方もいらっしゃるようですが、日本の水道水は厳しい衛生基準をクリアしており、植物を枯らすほど薬品まみれという訳でもありません。
実際、水道水を、そのまま繰り返し、盆栽の水やりに使用していても、枯れない場合が多いのではないかと思います。しかし、一定の条件を満たしたときに、植物が枯れる原因の一部を作り出すことがあります。
1.植物がある程度以上の大きさでたくさん根が育っている。
2.育ったたくさんの根の中に老化した根があり、少々死んでいるが他の根は元気である。
3.気温が高い日が続く。
本来植物は天の恵みである雨水で育っているものが多いので、雨水が植物の生長にはいいはずです。実際、雨水に含まれる成分は植物にとって栄養になります。
植物が生きていくために、摂取しなければならない栄養分を必須要素といい、17種類あります。その中でも重要なのが、肥料の三要素といわれる、窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の3種類となります。
窒素(N)葉や茎の生育に欠かせず、植物の体を大きくする
リン酸(P)開花、結実、全体の生育、枝・根の成長を促進する
カリウム(K)根や茎を丈夫にし、病気や寒さに対する抵抗力を高める
肥料では、袋にこれらがN、P、Kは比率として明記されています。
となると、雨水はいいところばかりのようですが、地域や季節によって、酸性雨、光化学スモッグ、PM2.5、黄砂なの影響で、雨水中の大気汚染物質濃度が高まる場合もあるようです。
水道水をそのまま使用するのではなく、水瓶やバケツなどに汲み置いた水や、雨水を溜めておいて使うのが理想的です。1日汲み置きしておけば、カルキや塩素などの成分が抜けるでしょう。
井戸水も、アルカリ性の強いものですと、葉が黄色く変色してしまう場合もあります。水を汲み置きしておくと、井戸水などの硬水を軟水に変えると共に、井戸水は冷たいものが多いですから気温と近い水温になります。
清潔な水というと、浄水器の水がいいのではないか、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、植物に必要な成分が抜けてしまっている場合もありますので、汲み置きした水が1番おすすめです。
ミネラルウォーターも、マグネシウムやカリウムなど植物に必須の栄養素を含んでいるとはいえ、それらを多量に含んでいる硬水のものが多いです。マグネシウム、カリウム、ナトリウムなどの元素を大量に含む硬水は、浸透圧の関係で栄養素を吸収する植物にとって、栄養を吸い上げにくい水となります。
ほとんどの植物は硬水に対応はできるのですが、植物細胞への染み込みを邪魔しないのは軟水となります。その他、カルキや化学物質など取り除き、水を浄化したければ、木炭を入れておくと、中性に変化するので、酸性雨対策にもなります。
汲み置いた水で注意したのが、衛生面です、あまりにそのままにしておくと、蚊の幼虫であるボウフラが発生したり、雑菌が繁殖したり、臭いの原因となってしまいます。
夏場に、水やりをする際は、蛇口をひねってあたたかい水を出してからか、ホース内に残っている熱くなった水を抜ききってからにして下さい。水が熱すぎると、樹が火傷してしまいます。
まとめ
水やり3年という言葉があるように、日本の伝統園芸である盆栽の水やりが、一人前の技量として認められるまでその位の年月がかかるということでよく言われる話です。
土の表面のみなく、盆の中の水まわりの状態がわかるまでには、経験を積むしかなく、加減がわかるようになるには、毎日盆栽と接すること、観察することが大事です。